
『土曜日』 イアン・マキューアン 著
「面白い」と「楽しい」は違うのだと、今更ながら思いました。
というのは、この本、面白かったとはいえるけど、読んでいて楽しかったとは?
舞台はロンドン。9・11のテロ後、いつイラク攻撃が始まるかというとき。その攻撃に反対する大規模デモが行われる土曜日。ある外科医がこの土曜日に何を考え、何をしたのかが書かれています。(しかも異常に詳細に。一瞬プルーストの名がよぎって、読みとおせないかと思った。
それと、まず最初にソール・ベローの『ハーツォグ』という小説の一節が引用されていて、いきなり学生時代の暗い思い出を呼び起されいやな予感が・・・長くなるので、この話は後日。)
彼は40代。仕事・家庭・もちろん経済的にも、成功者です。敢えてこういう人物設定にされているのでしょうが、小説の中でなければありえないくらい満ち足りた人生を送っています。しかしながら、この幸福が実はとても不確実なものであることを意識せざるを得ない主人公。
途中、彼と娘がイラク(=フセイン)攻撃の是非について口論になる場面があります。ここでの父の意見は、「報復テロは激化するかもしれない。でも、フセインを倒すことでイラクが民主化し、報復テロなど取り越し苦労に終わるかもしれない。もちろん、戦闘においては犠牲者がゼロということはないが、それはフセイン独裁政権による抑圧・虐殺の被害者よりはるかに少なくすむだろう。」というものです。
私はこの部分を、西側諸国の人間として父親の意見に沿って読んでいました。(読後にそれでよかったのか考えさせられることになるのですが。)
満ち足りた土曜日が終わりかけた家族の団らんの時間に、主人公の家に暴漢が押し入ります。彼とは昼間、この外科医が反戦デモを避けて侵入した道路で自動車の接触トラブルがあったのでした。彼は進行性の脳の病気を持っていて遠くない将来命も失うであろうことが、優秀な医者である主人公には言い当てることができたのです。そして、特別にその治験者リストに加えてやるという嘘により彼を油断させ、息子と力を合わせて彼を階段から突き落として窮地を脱します。
警察も引き上げたところに、病院から緊急手術の呼び出し。患者が先ほどの暴漢だということは判っていますが、彼は病院に行き外科医としての素晴らしい仕事をやりきって、家に戻りベッドに入ろうとするところで、やっと長かった土曜日が終わります。(日付はとっくに日曜日になっていますが。)
眠りに就く前、彼は考えます。明日は警察や家族を説得しなければ。あの病を持つ男を起訴しないように、と。
読後まず思ったことは、自分が憲法9条というものを持つ国の人間だということを忘れていたなぁと・・・なんだかこの英国人の外科医に念押しされたような気がしました。
独裁者・テロリスト・犯罪者に対する暴力による抑止はそれぞれどう違うのか。独裁者による虐殺・テロリズム・犯罪による被害者として、あるいはたとえ少数であっても戦争の被害者として、あるいは不治の病によって、自分の一つしかない命を失うということは、その人にとってどういう違いがあるのか。
よく分からないし、分かる人がいたら教えて欲しい。
そういうわけで、面白かったのですが、楽しくはない読書でした。
オススメ度は大です。
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